大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和61年(行ツ)2号 判決

兵庫県小野市西本町四六七番地

上告人

蓬莱殖産株式会社

右代表者代表取締役

蓮莢五一郎

兵庫県加東郡社町社字若ケ谷南之上五一-三

社税務署長

被上告人

金原孝司

右指定代理人

立花宣男

右当事者間の大阪高等裁判所昭和五九年(行コ)第二五号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和六〇年九月二四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤哲郎 裁判官 谷口正孝 裁判官 高島益郎 裁判官 大内恒夫)

(昭和六一年(行ツ)第二号 上告人 蓬莱殖産株式会社)

上告人の上告理由

第一、原判決には、以下に述べるとおり、事実認定に関する経験則違背、理由不備、理由齟齬の違法、法令違反の違法があり、さらに憲法第一四条に違反しており、到底破棄を免れないと思料する。

一、本件第一の争点である「仲介手数料」について。

1. 宅地建物取引業者に対する仲介報酬(手数料)は、業者のなす不動産売買等契約の仲介ないし媒介の役務提供に対して支払われるものであることはいうまでもない。而して売主坂下滋と買主岐阜プラスチツク工業(株)間の本件山林売買契約(乙第三四号証)について、上告人会社(代表者蓬莱五一郎)が仲介の役務提供をなした事実は全く存しないことは証拠上明白である。

すなわち、

(一) 右売買契約の契約書が作成され、代金全額の支払、決済がなされたのは昭和四八年四月二三日であり、当日は上告人代表者も契約に立会い契約書末尾に記名押印した(乙三四号証)。

しかし、右契約書の第四条但し書の記載から明らかな如く、その半月以上前の四月五日に土地売買仮契約がなされ、その時手付金一〇〇〇万円が授受された。この仮契約の際、上告人代表者は全く立会、関与しておらず、かかる仮契約がなされたことや手付金の授受の事実は関知していなかつた(原審における代表者本人の供述、甲第八五号証参照)。

右売買契約は、右仮契約において実質上成立していたのであり、四月二三日の契約書調印は形式上のもので、代金決済、所有権移転登記手続等の履行に主眼があつた。ただし、本件山林が市街化調整区域内にあるため地主坂下の名義で工場の建築確認申請をしなければならず(乙第三四号証の第八条参照)、それが下りる見通しがついた時点で形式的に本契約の調印をしたものである。

このように本件売買の核心である右仮契約に立会したのは、売主側・買主側のそれぞれの実質的仲介者である松浦芳助と塚原照義だけであつて、もとより上告人代表者は立会していない(甲第八五号証)。もともと売主坂下から本件山林八、三〇〇坪余の管理を委されていた右松浦の許へその友人である右塚原が、坪二万円で買いたいという買主岐阜プラスチツクを紹介し、右松浦と塚原が仲介者となつて右売買契約の内容を め上げ契約締結に至らせたものである(松浦芳助第一審・昭五五・三・一八付調書)。それ故にこそ、右契約締結当日、買主側から塚原に仲介手数料五〇〇万円(小切手)が支払われ、後日売主坂下から松浦へ仲介報酬を含めて二、八二六万円が支払われたのである。

(二) 上告人代表者は、右仮契約によつて手付金授受、特約としての立木補償二〇〇万円の支払その他契約内容を事前、事後にも知らず、乙第三四号証の写すら受取つていなかつたのであり(本件裁判の第一審口頭弁論期日の昭五八・八・三一に法廷で被上告人側から乙号証として提出されてはじめてその内容の詳細を知つた有様である。)、又乙第三四号証の売買契約書には、当事者欄の末尾に上告人代表者が記名捺印しただけで、割印、訂正印は一切押捺していない。

(三) 以上の諸点からみれば、本件山林売買契約は、売主側松浦芳助、買主側塚原昭義の仲介により成立したものであつて、上告人代表者が右契約の仲介の役務提供を何らしていないことも明白といわなければならない。

しかるに原判決は、「本件山林の売買契約締結の際、わざわざ岐阜まで出向いてこれに立会い、仲介業者として只一人契約書に記名捺印したことに対する対価として売主側から前示五〇〇万円が支払われた」旨認定判示しているのは、仲介の役務提供という前提事実がないのに、これありとした重大な事実誤認を犯しているものというべきである。

実質的に仲介をしていない業者が契約に立会う場合、所定の仲介報酬に等しい多数の金額の金員が支払われることは、不動産業界の取引実務上ありうべからずことである。その場合支払われるのは精々旅費、日当にすぎないのが実情である。又もし原判決の判示する如く、上告人代表者が仲介を行なつたのなら、売主、買主双方に対し仲介報酬を請求でき、又その支払がなされた筈であるが、実際に買主側から報酬を支払われたのは塚原であり、売主側は松浦に報酬を支払つている。従つて右判示は、社会通念に反し、かつ経験則に違反する。

(四) 右売買契約に上告人代表者が立会い、記名捺印した事情は、塚原、松浦とも宅地建物取引業の正式免許を有していないため、松浦の依頼により右免許を有する上告人が右売買契約の立会人となつた形式を残すためであつたことは第一審における松浦芳助の証言、上告人代表者の原審及び第一審における各供述によつて明らかである。上告人会社における代表者本人と松浦芳助の深い密接な関係から、右証言等は充分首肯しうるところであるし、右売買契約当日上告人代表者らが岐阜市内へ出張しているに拘らず、その旅費等は上告人会社の経費として支出されてもいない(甲第九〇号証)。要するに、原判決の認定するような、上告人に対し仲介報酬が支払われるべき上告人の役務提供は何らなされていないのである。

(五) 上告人代表者が作成した乙第八号証の領収書の作成経緯については国税不服審判や第一審以来上告人が一貫して主張してきたとおりである。すなわち上告会社は昭和四七年三月三一日現在、小野市農協小野支所から一、一八〇万円を上る借入金があり、その担保として松浦芳助所有の居宅と敷地を含む不動産全てに根抵当権が設定されており(甲第一三、第一四号証)、又松浦は上告人会社の取締役であるが、一銭の報酬も支払われていないという特殊な背景、事情の下で、坂下の売買、山林の買取、造成、管理に一〇年以上時間と労力をかけ、右山林の共有者に等しい立場にあるのに、売買代金一億六、六三〇万円に対し坂下から支払われた報酬・分配金は、三、〇〇〇万円にも満たず(諸費用まで差引いて二、八二六万円)大いに不満であつたところから、松浦側にもいろいろ費用がかかつていることを坂下にみせつける裏付けの一として、上告人代表者に全く実態のない右領収書の作成を指示し、上告人代表者も松浦との前記特殊な関係からこれを拒みえなかつたというのが真相である(第一審松浦芳助第一・二回証言、上告人代表者供述)。

上告人代表者は決して坂下から直接金五〇〇万円を受領していないし、松浦芳助から金五〇〇万円を受取つた日は昭和四八年四月二七日であり(甲第一八号証)、乙第八号証の日付四月二六日ではない。乙第八号証や乙第三四号証の作成の経緯や背景に関する証拠を仔細かつ丹念に検討するならば、形式と実質の相違、乖離に容易に思い至るはずであるのに、その精査を怠り、証拠の採否に関する経験則違背を犯し、重大な事実誤認に至つたものというべきである。同時に理由不備、理由齟齬の違法も犯している。

2. 本件で問題の金五〇〇万円を金員の流れからみても、上告人の所得となつたような事実関係はない。

(一) 昭四八・四・二七、坂下滋から松浦芳助へ金二、八二六万円也が神戸銀行小野支店振込送金(甲第一八号証)。松浦に対する謝礼金(仲介報酬を含め)、ちなみに松浦はこの所得について申告していないし、被上告人において課税もしていない。

(二) 同日、松浦から上告人代表者へ金五〇〇万円交付。

(三) (1) 四・二八上告人代表者から小野市農協小野支所へ金三〇〇万円入金、同日金二六四万二、四八五円払出(甲第一五号証)。

(2) 右同日上告人代表者から小野市農協大部支所へ金二五八万二、一〇一円、松浦の同農協に対する借入金返済。

甲第二ないし四号証、第七号証がいずれも大部農協(大部支所の前身)。への松浦の貸付金返済であることを明確に証言している(松浦の第一審第二回証人調書末尾)から、これらの証拠を無視することは許されない。

(3) 昭四八・五・一、金三〇〇万円入金(甲第七一号証)。二〇〇万円入金という第一審の認定は右書証にてらし誤りである。

(四) 昭四八・六・二七、上告人代表者から松浦へ残金一、四一七、八九九円返済(甲第六号証)。

(二)の五〇〇万円から(三)、(2)及び甲第二号証の金一〇〇万円を差引いた残金。

以上のとおりであり、本件の五〇〇万円は、約二カ月で松浦に返済され、上告人の所得となつた事実は全く認められない。

3. 以上が本件の実態であり、核心である。

被上告人が指摘するような上告人会社の経理帳簿や税務申告・その他提出書面には、主として借入金に関し、上告人代表者が債権者たる友人の立場を慮つてわざと債権者を偽り記載した箇所があり、又記帳ミスがあつてそれらが記帳上の隠蔽の如く記載されたところがある。この点は上告人代表者としても深く反省しているところであり、後日、西尾会計事務所の調査・指導で顛末書の取消しを通告し(乙第三二号証)、補正を行つた(甲第八九号証)。しかしこれらは、本来上告人会社の収益には影響のない、枝葉末節の問題であり、前述した本件の核心、根幹を見失わないで頂きたい。すなわち上告人代表者の出身校の一年後輩で友人の、門脇隆から昭和四五年七月三一日に金四〇〇万円を借入れたが(甲第五九号証)、同人が八千代町役場建設課長の公職にありかつ町長選挙立候補準備中であり、上告人代表者が不動産業者であるところから、世間の誤解をさけるため債権者名をかくすため松浦芳助の了解を得て、同人から三〇〇万円を借入れたことに仮装した(乙第三〇号証)。

第一審判決は、四六枚目表〈5〉でこの訂正を看過し、上告人の仮装事実をそのまま認定し、原審判決もこれを踏襲してしまつたが、大部農協は松浦の借入・取引があつたが、上告人代表者にはなく、この点で基本的事実誤認に導かれている。

4. 第一の争点に関しては以上のとおりであり、原判決には前述の如き事実認定上の経験則違背、理由不備、理由齟齬の違法があることは明らかである。

さらに、被上告人が上告人の実体なき仲介報酬を上告人の収益として認定、課税した本件更正をそのまま是認し乍ら、明らかに当該年度に多大の所得を得た松浦芳助はもとより、塚原照義にも何ら課税処分をなさなかつた被上告人の課税の不平等を追認したこととなる原判決は、実質上法の下の平等を規定した憲法第一四条に違反するものであり、破棄を免れないものと思料する。

最高裁におかれては、公正妥当なご判断を賜りたい。

二、第二の争点、「仮受金」について。

1. 住宅地造成事業に関する法律(以下旧宅造法という)第四所定の、事業の認可を受けた者についてその認可の承継は、事業主について相続又は合併があつた場合に限られ(同法第一一条一項)、同法上認可名義人の変更を行うことはできない。これに対し、第一審判決は「(しかし)実質上はこのような事業の承継は広く行われており、行政当局もこうした取扱いを容認していた」と認定している。右認定判示は、専ら乙第二〇号証の坂手誠の回答に基づいているので、上告人は甲第八二号証を提出し、右坂手の回答が誤解を与えるので、全面的な訂正をして貰つた。

その後さらに小野市との間で提出させられた甲第八七号証(公共施設管理及び移管に関する確約書)を提出し、その他甲第七三、七五、七六号証によつて第一審判決の右認定判示の誤りを立証した。

しかるところ、原判決は、第一審判決の五一枚目表八行目以下の判示、「移管までの公共施設の管理は、実体上の事業主である幸栄産業が自己の負担において行なうべきものであることが当然のこととして了解されていた」とあるのを、「自己の計算で上告人の名において行なうべきものであること」と訂正判示している。

しかし、甲第八二号証の趣旨や上告人の原審における供述からみて、単に公共施設の管理責任者が名義上、認可名義人であるというものではなく、実質的にも認可名義人がその義務の主体である。このことは、甲第七三、七五、七六号証によつて明らかである。

右のような判示の訂正は甲第八二号証における市担当者の回答の趣旨を正解しないごまかしとしかいいようがない。この点について、原判決は、「成立に争いのない甲第七三号証の一ないし三、同第七五号証も右認定に反するものとはいえず」と追加判示しているが、明らかに理由齟齬の違法が存する。

さらには旧宅造法第四条第一一条の解釈の誤りがみられるのである。

2. 本件宅地造成業者の実態、兵庫県への対応、並びに小野市への公共施設(道路・上下水道・公園・県会利用地等)の移管及びそれまでの公共施設の管理責任、費用負担さらに、住宅団地内住民の要望に対応すること等本件事業の実態による債務未確定費用の引当計上は当然の処置であり、上告人は認可名義人としては甲第八六、第八七号証の如き責任を全うしなければならない義務を負うものである。

従つて幸栄産業宮本から支払を受けた一、〇〇〇万円のうち五〇〇万円を右の趣旨において第八期の収入に算入せず、第九期以降の収益に計上したのは企業会計原則の損益計算原則三Bに適合し、適法なものである。このことは第一審で証人西尾茂巳税理士が証言したとおりである。

これに反する被上告人の本件更正処分は右会計原則に違反し、ひいて、租税法規の適用においても違法を犯しており、取り消されるべきものである。

原判決は、この点の認定解釈を誤つており、法令に違背するといわなければならない。

3. 本件で幸栄産業宮本が上告人に支払つた金一、〇〇〇万円は、第一審判決やそれをそのまゝ引用する原判決認定の如き、「工事完了届を上告人名で提出するための押印料」の趣旨で授受されたものでは決してなく、上告人による本件浄土寺団地内の公共施設等の小野市への移管、引渡し完了までの各種の役務、ノウハウ、緒経費の補償の一部にすぎず、上告人と幸栄産業間でその精算が未了であることは、甲第六三号証のとおりである。

乙第三七号証の一での宮本の供述は、被上告人側の執拗な取調べの結果で真意ではない。元来この種の尋問は公開の法廷においてなさるべきもので、右の如き書証の提出合戦は極めて変則であり、証拠価値に乏しいというべきである。

4. 従つて、第二の争点に関しても原判決は、前提事実について重大な事実誤認を犯し、企業会計原則に違背し、理由齟齬の違法を犯しており、公正なご判断により破棄されるべきものと信ずる。

第二、結語

以上の次第で第一、第二の各争点についての原判決の認定判断は、前記の如き違法があり、極めて不公正なものであるから、最高裁におかれましては慎重にご審議の上、公正、妥当なご判断により原判決を破棄して頂きたい。

以上

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